「医学物理士」とは

 「医学物理士」とは、放射線医学(放射線治療、放射線診断、核医学、放射線防護・安全管理)における物理的および技術的課題の解決において活躍するスペシャリストであり、医学物理士認定機構が実施する医学物理士認定試験および認定審査に合格した者です。医学的な専門知識に加えてある程度の理工学的な専門知識も要求される職業と言えます。近年、高精度放射線治療技術の発展と普及に伴い、主に放射線治療分野でその活躍の場が大きく広がりつつあります。放射線治療分野における医学物理士の役割は、一言でいうと高品質の放射線治療が実施されていることを担保する事です。つまり、患者体内での線量に関する位置的精度と量的精度が臨床上必要な範囲に収まっていることを確認し、医師の処方通り治療が行われていることを担保することと言えます。医学物理士の数は近年順調に増えてはいるものの、実際に医療現場で求められている数にはまだまだ達していないのが実情です。

「高精度放射線治療」とは

  高精度放射線治療には様々な形態がありますが代表的なものとして「強度変調放射線治療(IMRT)」が挙げられます。IMRTは放射線治療における外部照射法の一つで、放射線治療装置から出るX線の形状や濃淡をコンピュータ制御で自在に変化させながら照射を行う治療法です(図1)。この技術により、がん細胞(腫瘍)へ照射できる線量を従来法より増加する事ができ、また近接する正常組織の線量を低減することが可能となりました。例えば、前立腺がんの場合は治療成績の向上と近接する直腸に生じる副作用の低減が同時に達成可能になりました。しかし、IMRTのような複雑な治療を安全かつ高品質に実施する上でクリアしなければならない物理的および技術的課題は非常に多岐に渡ります。すなわち、高精度放射線治療の実施における医学物理士の果たすべき役割と責任は非常に大きいと言えるのです。

臨床現場での「実践力」も身につけられる充実したカリキュラム

 本学大学院保健学研究科博士前期課程の「医学物理士養成コース」は医学物理士認定機構による認定を受けた教育コースであり、様々な先進的な取り組みを実施しています。2年次に受講する「医学物理臨床実習」では週に1日程度新潟大学医歯学総合病院の放射線治療科での研修を実施しており、実際に現場で働く医学物理士の指導を受けながら放射線治療計画法と線量測定法に関する実践的なスキルを身につけられます(図2,3)。「医学物理臨床実習」の最終試験では口頭試験を実施しており、ここでは学生が試験官に対して医学物理の重要な内容について「説明する」事を求めています。なぜなら、単に知識があるだけではなく物事の本質を理解していなければ分かりやすく人に説明することはできないからです。本コースでは、本当の意味で医学物理を「理解する」事も目指しています。本コースに所属する学生は2年次の秋に医学物理士認定試験を受験しますが、最近2年間(平成26、27年)は受験者全員が合格するという素晴らしい結果を残しています。また、大学院修了後により実践的な医学物理士としてのスキルを身につけたい方は、本学の「医学物理士レジデントコース」に進んで引き続き医学物理士としての専門教育を受けることも可能です(図4)。このような医学物理士レジデントコースを備えた教育機関は新潟大学も含めて全国に未だ2つしかありません。このように、全国でも屈指の教育体制を備えた新潟大学で医学物理士を目指してみませんか?
 

 
図2:「医学物理臨床実習」の治療計画実習の様子  
 
図3:「医学物理臨床実習」の線量測定実習の様子  
 
図4:医学物理士のキャリアパス  

本研究科の取り組み※の経緯(概略)

  • 平成24年4月
本研究科(博士前期課程)に医学物理士養成コースを開設
  • 平成24年8月
医歯学総合病院に医学物理室を設置
  • 平成25年1月
大学院医歯学総合研究科に、がんプロ特任助教(医学物理士)着任
  • 平成26年4月
医歯学総合病院に特任助教(医学物理士)着任
  • 平成27年4月
本研究科の医学物理士養成コース:JBMP教育コース認定取得
  • 平成27年10月
医歯学総合病院放射線治療科に医学物理士レジデント着任
  • 平成28年4月
医歯学総合病院放射線治療科に医学物理士レジデント着任
  • 平成28年4月
医歯学総合病院の医学物理士レジデントコース:JBMP教育コース認定取得(条件付認定)