2024年3月19日(火)
神経コンドロイチン硫酸含有量の減少は糖尿病性神経障害を軽減する−糖尿病性神経障害の予防に新たな知見
血液・腫瘍検査学 牛木隆志准教授および新潟大学医学部 血液・内分泌・代謝内科 石黒 創特任助教、新潟大学医学部 神経生化学 五十嵐道弘教授らの研究グループは、糖尿病の慢性合併症である糖尿病性神経障害の軽減に、末梢神経組織におけるコンドロイチン硫酸の含有量減少が重要であることを見出しました。
固形臓器の細胞と細胞の間には、『細胞外基質』という構造が存在しています。細胞外基質はこれまで細胞同士を接着している単なる構造物と考えられていました。しかし、近年では各種成長因子やサイトカイン、ケモカインなどを保持することで、細胞の成長や増殖、活性化に大きく関与する因子であることが知られるようになってきました。コンドロイチン硫酸はこの細胞外基質の代表的な構成成分の一つであり、中枢神経ではコンドロイチン硫酸は障害を受けた神経突起の修復や再生を阻害していることが知られていました。これまで、この中枢神経におけるコンドロイチンの作用は末梢神経においては明らかではありませんでした。今回、我々は糖尿病の重大な末梢神経合併症の一つである糖尿病性神経障害の発症や進展にコンドロイチン硫酸の含有量が及ぼす影響について検討を行いました。
研究グループではコンドロイチン硫酸の含有量が減少している糖尿病モデルマウスを用いて、コンドロイチン硫酸含有量の減少が糖尿病性神経障害の軽減をもたらすこと、さらにその機序は網羅的遺伝子発現解析の結果から神経細胞において形質転換増殖因子β(transforming growth factor β, TGF-β)関連のシグナル伝達を抑制することに起因していることを明らかにしました。
本研究では細胞外基質であるコンドロイチン硫酸が末梢神経障害である糖尿病性神経障害の重症度に関与していることを世界で初めて示しました。本知見は糖尿病性神経障害の治療法の開発において光明をもたらすと共に、本メカニズムを追求することで新たな発症予防法の開発へも貢献できる可能性を示唆しています。
本研究成果は、国際自然科学誌「iScience」の2024年3月19日付(EST)オンライン版に掲載されました。
論文タイトル
Reduced chondroitin sulfate content prevents diabetic neuropathy through TGF-β signaling suppression
著者
石黒 創1, 牛木隆志1,2,*, 本多敦子3, 吉松康裕4, 大橋瑠子5, 奥田修二郎6, 河嵜麻実3, 張かおり1, 田村 秀1, 諏訪部達也1, 片桐隆幸1, Yiwei Ling6, 飯島淳彦7 , 三上雅久8, 北川裕之8, 植村明嘉9, 三五一憲10, 増子正義1, 五十嵐道弘3,*, 曽根博仁1
所属
- 新潟大学医学部医学科 血液・内分泌・代謝内科学
- 新潟大学大学院 保健学研究科 血液・腫瘍検査学
- 新潟大学大学院 医歯学総合研究科 分子細胞機能学・神経生化学
- 新潟大学大学院医歯学総合研究科 薬理学
- 新潟大学医学部医学科 臨床病理学
- 新潟大学大学院 医歯学総合研究科 新領域開拓研究センター
- 新潟大学工学部工学科 人間支援感性科学プログラム
- 神戸薬科大学 生化学研究室
- 名古屋市立大学 眼科学教室
- 東京都医学総合研究所 糖尿病神経障害プロジェクト
*共同責任著者