第2回たばこ対策研究会 春季大会テーマ「今私たちにできること」これからのこと一緒に考えてみませんか?

概要

会場の様子

開催日:
2002年6月1日
開催時間:
13:00~16:00
開催場所:
新潟県医師会館 3階大講堂
共催:
新潟県たばこ対策研究会、新潟県医師会、新潟県成人病予防協会、ノバルティスファーマ株式会社、ファルマシア株式会社

1.新潟県たばこ対策研究会について

代表世話人:新潟大学大学院医歯学総合研究科 国際感染医学講座公衆衛生学分野 鈴木宏

2.シンポジウム1

座長:新潟県医師会理事 渡辺悌三先生

1)「県内の公共施設のたばこ対策実施状況」

新潟県福祉保健部健康対策課

平成12年度(調査基準日平成12年12月1日)に県内公共施設のたばこ対策の実施状況を把握し、今後の基礎資料とすることを目的に、県内の医療機関、教育機関、官公庁及び文化施設等におけるたばこ対策実施状況調査を行ったので報告する。

調査内容は、施設の分煙状況等の喫煙対策実施状況(調査票(1))および医療機関における禁煙外来等の禁煙サポート実施状況(調査票(2))である。調査票(1)の対象は、A)学校を除く公共施設(市町村の役所又は役場、市町村保健センター、市町村支所・出張所、保健所、県出先機関、国の機関、病院、文化施設の計905施設)、B)学校(小学校、中学校、高等学校の計1,008施設)である。調査票(2)の対象は、C)県内の病院および診療所の計1,861施設である。回収率はA)84.2%(762施設)、B)95.0%(958施設)、C)79.2%(1,473施設)であった。

A)学校を除く公共施設についての主な調査結果
  1. 全体の77.4%がたばこ対策を「必要である」と考えており、施設別では、保健所(100%)、国の機関(95.5%)が高く、市町村の支所・出張所(72.2%)、文化施設(56.9%)と低かった。病院では「必要である」との回答は8割程度であった。
  2. 公共施設の83.1%が何らかのたばこ対策を実施しており、その内容は分煙が最も多く実施施設の85.6%であった。ただし、執務時間中の受動喫煙防止となる事務室外喫煙場所の設置は、63.5%であった。
  3. たばこ対策実施状況について、開始時期は1990年以前に開始している施設も若干あるが、「たばこ行動計画検討会報告書」(1995年)及び「公共の場所における分煙のあり方検討会報告書」(1996年)とともに急増していた。
  4. たばこ対策実施の動機は「管理者側からの要望」が52.8%と多く、「非喫煙者からの要望」が46.1%、「職場における喫煙対策のためのガイドライン」が16.6%であった。
  5. たばこ対策に対する職員の評価は概ね良好(良好45.2%、どちらかといえば良好41.1%、計86.3%)であった。
  6. たばこ対策実施上の困難な点として、スペース不足や予算不足が多く、また職員の意識不足、喫煙者の反対も対策推進のネックとなっていることも明らかになった。
B)学校についての主な調査結果
  1. たばこ対策の必要性についての認識は73.4%であり、公共施設における必要性の認識(77.4%)より低い傾向であった。
  2. 81.2%(778校)で何らかのたばこ対策を実施しており、公共施設と同様であった。実施内容は分煙対策が最も多く90%以上であり、全面禁煙は778校中53校であった。「禁煙タイム」や「自由に吸える」という学校はほとんど無かった。
  3. 1990年以前にたばこ対策を開始している学校はほとんどなく、1995年以降に増加している。
  4. 実施の動機は「非喫煙者からの要望」が79.6%と多く、「管理者側からの要望」は38.0%であった。
  5. たばこ対策に対する職員の評価は概ね良好(良好48.2%、どちらかといえば良好が39.2%、計87.4%)であった。
  6. たばこ対策実施上の困難な点として、スペース不足が多く66.6%、ついで予算不足19.5%であり、公共施設と同様であった。
  7. 喫煙防止教育は小学校45.5%、中学校87.5%、高等学校90.1%、全体で61.1%の学校で実施されており、授業が主体であったが、高等学校では実施校の36.3%で講演会等が開催されていた。
C)医療機関における禁煙サポート実施状況調査結果
  1. 禁煙外来は2.6%(38/1,473施設)で実施されていた。
  2. 一般診療におけるニコチン代替療法は22.0%(276/1,252施設)で実施されていた。

※たばこ対策実施状況調査報告書についての問い合わせ

新潟県福祉保健部健康対策課健康増進係 TEL:025-285-5511 内線2659

2)「県医師会の取り組みの現状と対応」

新潟県医師会 倉品克明先生

5月31日はWHOが定める世界禁煙デーであり、たばこを吸わないことが一般的な社会習慣となるよう設けられた。昨晩NHKの金曜フォーラム当番組で、今年、日本医師会が行った公開講座「子供とたばこ」が放映されていた。冒頭で、日本医師会長は、がんの3分の1にはタバコが関係しており、特に肺がんは若い時からの喫煙により30倍くらいになることなどを述べていた。元アナウンサーの「これだけ危険だといっているのに言いたいことが伝わらない。たばこは嗜好品、たくさん吸わなければ良いということが一般的に通っている。喫煙がいけないということが伝わる社会にしていきたい。」という言葉がとても印象的であった。

日本医師会では平成12年度に、会員の喫煙についての調査を実施し、男女とも喫煙率は一般の半分程度であり、喫煙する医師は患者の指導に消極的であることもデータとしてはっきり示された。現在様々な禁煙キャンペーンにも取り組んでおり、その反応は多くが賛同的なものであり、また「医師・看護師が率先して禁煙」や「医師会館の全館禁煙」という医療側への要望が特に強い。

このような背景を受けて、新潟県医師会は禁煙に取り組んでおり、県医師会館の喫煙場所をこれまで1ヵ所であったものを、今年の4月1日からは全館禁煙とした。日本医師会によれば新潟県は全国で5番目であり、現在は10の都道府県医師会で全館禁煙とのことである。

また、郡市医師会に対して喫煙対策への取り組み、喫煙率調査実施の有無、喫煙対策に対する各種学会の宣言や「肺の日」の認知、日本政府の喫煙対策への意見などのアンケート調査を行っている。その結果、新潟市及び見附市南蒲原郡医師会は、ホームページの活用、啓発活動の実施などで積極的に取り組んでいるとの回答があり、今後さらに5医師会が喫煙対策を実施する予定であった。アンケートの中で、各医師会から喫煙対策の推進について以下に示すような様々な意見が寄せられた。

  • 喫煙の低年齢化について早急に喫煙防止(防煙)実行して行かねばならない。
  • たばこの値段を大幅に上げれば、未成年者の購入量が減少し、喫煙習慣も低下する。
  • たばこ広告禁止。
  • たばこの外置き自動販売機の撤去。
  • 女性の喫煙率増加への対策への必要性。
  • 管内行政が実施している各種禁煙事業(個別健康教育など)への参画。
  • 健康日本21との関連を考慮した積極的な事業展開と地域タバコ対策への参画・協力。
  • 医療及び教育の場における禁煙の徹底。医師、教師は率先して模範を示すべき。など

県医師会では何ができるかをこれから考えていかなければならないが、今年度は予算を計上して喫煙率調査等を行う予定である。防煙-分煙-禁煙サポートをバランスよく進めるためには、関係機関(市町村、職域、保健所、医療機関など)の相互の連携が重要であり、また喫煙者を排除するのではなく、一緒に取り組んでいくことが必要であると考えている。

3.ポスター・展示・体験セッション

ホールに各種展示、喫煙対策関連機器、参考図書、呼気中一酸化炭素濃度測定体験コーナー等を設置しました。

石井正敏先生からご提供いただいた
資料が提示されています。

呼気中一酸化炭素濃度、
動脈血酸素飽和度測定体験コーナー

呼気中一酸化炭素濃度測定の模様

参考図書の展示コーナー
公衆衛生学教室にあるたばこ対策関連図書の
一部を並べてみました。

会場最後部のポスター・パネル展示コーナーの様子1
共催の企業からご提供いただいた
ポスターやパンフレットはお持ち帰り自由です。

会場最後部のポスター・パネル展示コーナーの様子2

4.シンポジウム2

3)「喫煙防止学習の実際-学校・行政・地域の連携」

新潟県三和村立美守小学校 中村直美

小学校の養護教諭と保健センターの保健師との連携を通した、小学生のたばこに関するより良いライフスタイルの育成をめざした取り組みの報告である。

三和村立美守小学校は、農村部に位置し95人の児童が在籍する小規模校であり、地域の人々の学校行事への関心と協力度は高い。養護教諭の取り組みの動機は、高校進学により地元を離れる子どもたちのたばこ等の負の免疫に弱い実態を痛感したことからであった。おりしも三和村は、平成12年度よりタバコ問題を最重要課題の一つとした健康計画に着手したところであり、村の禁煙サポート事業としての保健師が開催する禁煙教室を見学したこともきっかけとなった。

平成13年度に、小学4年生以上の児童を対象にタバコに関する実態・意識調査を実施し、「将来絶対喫うであろうと考えているこどもが1割いる」、「自宅での喫煙場所は居間であることが多い」、「家族に喫煙者がいるこどものうち、8割が喫うことを止めて欲しいと思っている」等の結果が得られ、またPTAの保健体育部による喫煙する保護者に行ったアンケートでは、「喫煙者自身も過去1回は、止めたいと思ったことがある」、「たばこを喫わないライフスタイルを育成するには、何が悪いことなのかの情報が必要」などが明らかになった。以上のことから、知識教育とライフスキル学習の2本の柱とする喫煙防止対策の実施を検討した。

知識教育として、学校保健委員会(すこやか健康ネットワーク)のテーマとして、「子どもとタバコ」を取り上げ、家族ぐるみでタバコについて学ぼうという親子学習会を開催した。

学習会は、アンケート結果をもとに保健委員の子ども達が作り上げた創作劇、PTA保健体育部による保護者アンケートの結果紹介、クイズ・グループワーク形式の医師によるタバコ基礎知識講話に加えて、禁煙者代表として地域住民の中から村の禁煙教室卒業生と教頭による体験談の構成であった。

学習会後「絶対吸う」が0となり、「絶対吸わない」は過半数になった。さらに、吸わない理由も「くさい」「イヤ」等の漠然としたものから、健康影響を指摘する回答が多数をしめるようになっており、子どもの意識・知識の向上が認められた。

次いで、タバコの誘惑に対処する方法として、小学6年生を対象にロールプレイを用いたスキル学習を実施した。

ロールプレイを通して、断ることの難しさや断り方(コミュニケーションパターン)を学習し、終了後の感想からも子ども達の理解がより深まったと考えられた。

さらにこうした取り組みは、教育を受けたこども自身への直接的効果だけでなく、教育に参加していない家族や兄弟へも影響があるなど効果が大きかった。

また学校と行政・地域の連携・協働による対策は、担当者が変わっても継続が可能であり、今後も継続性・定着性を大切に進めていきたい。

なお、実践の舞台となった地域は、日頃からこどもの健康問題に関して、養護教諭と行政の保健師とが、お互いの業務に関するアイデアを交換するなど緊密なコミュニケーションを持っている。さらに、保護者も学校行事へ積極的に参加するなど、学校関係者と保護者とのコミュニケーションもとれている地域でもあった。

今回の効果的なたばこ対策は、保健師が日頃の活動を通して住民の禁煙に対する関心を高めたり、学校保健のネットワークに住民や行政の保健師が参加するなど、学校ー家庭ー行政の連携が成果を生み出す背景となっていたと痛感した。

4)「歯科からの提言-タバコと口腔の健康」

石井歯科医院 石井正敏

喫煙は肺がんをはじめとする悪性腫瘍や虚血性心疾患、歯科医師にとって無視できない歯周病など多くの疾患の危険因子であり、一次予防の最重要課題と言われている。

口腔が健康で、ものがおいしく良く噛めるということは、一見あたりまえのことのようだが、実はとても幸せなことであり、QOLやADLという面において大きな意義をもっている。しかし、実際には口の健康を生涯にわたって良好な状態に維持していくことは難しい。その理由のひとつに喫煙の問題がある。

8020運動は「80歳まで20本の健康な歯を保とう」という日本歯科医師会が掲げている政策である。1993年厚生省の資料によると、平均的に20歳のとき28本であった歯は80歳になると4本に減り、政策目標とはかけ離れている。これでは快適な食事は不可能である。この歯の問題にはたばこが大きく影響していることが1980年代後半より多くの研究から明らかにされてきている。

歯を失う二大原因は、むし歯(齲歯、48%)と歯周病(42%)で、ともに細菌(バイオフィルム)感染症であり、その進行にはさまざまな危険因子が関与している。15-24歳では虫歯が70%であるが、55歳以上になると歯周病が80%を占める。歯周病は中年以降に症状が顕著となり悪化して抜歯されることが多い病気である。

歯周病とは、歯周組織(セメント質、歯槽骨、歯根膜、歯肉)に発生する疾患である。歯根表面にバイオフィルム(プラーク)が付着すると、バイオフィルムの内部にまで薬の効果を及ぼすことはできないので、機械的に歯ブラシで取り除かねばならない。さらに唾液中のカルシウムの作用でプラークが石灰化して歯石ができると、機械的に除去する治療が必要となる。歯肉に炎症が起こるとそれに続いて歯周ポケットが形成され、歯根膜の破壊、歯槽骨の吸収、歯肉の退縮、そして歯の動揺が起こる。歯周組織の病変が進行し、歯を支える歯槽に膿がたまり、排膿がみられる状態をいわゆる歯槽膿漏という。

歯周病の進行はバイオフィルムと個体の抵抗力の低下による。その危険因子として、喫煙、糖尿病、ホルモン異常、ストレスなどがあるが、アメリカのジェンコらをはじめとする内外の臨床研究・疫学調査により、喫煙が歯周病進行に関与する最も重要な危険因子であることが明らかにされている。特に喫煙本数(累積本数)が多いほど、また喫煙開始年齢が早いほど、歯周病の進行が著しいことが示されている。喫煙は歯肉、前歯、上あごの内側など直接たばこ煙に接触する部位の症状を悪化させ歯肉の退縮とともに歯間部の空隙は拡大する。ニコチンの血管収縮作用は歯肉の炎症を気づかないうちに進行させ歯周病を悪化させる。

さらに、喫煙は歯周治療や口腔外科処置の効果を台無しにしてしまう。歯科医療担当者が一生懸命に治療を行い、患者さんが徹底的なプラークコントロールに励んだとしても、禁煙の協力が得られない喫煙者では良好な治療成績を得ることは非常に困難である。

喫煙により胃潰瘍、呼吸器系の疾患率も高まる。妊婦の喫煙は早産、低体重児出生の原因になるだけでなく、出生した児も歯質の石灰化が不良なため「う歯」に罹りやすくなる。一方副流煙は家族の歯の健康にまで影響を与えている。喫煙者の両親のいる家庭の子どもには歯肉の黒ずみがみられる頻度が高いようである。

喫煙は口腔と歯の健康をおびやかす主要な危険因子であり、歯科の視点からもたばこ対策は強力に推進する必要がある。

5.総合ディスカッション

シンポジストによる討論の後、活発な質疑応答が交わされました。