3.MTFの測定-エッジ法- 

【エッジ法】
エッジ法によるMTFの測定手順の概略を図1に示す.特に今回はディジタルX線システム(FCR)でのMTF測定を行うので,それに沿って説明する.

  図1 スリット法の測定手順概略

@エッジ
カッターナイフなどの簡便なものでもエッジ像を撮影することができる.撮影するときには,X線束の中心がエッジに対して垂直に入射するように配置にしなければ,正確なエッジ像が求まらないので注意する.

A特性曲線
アナログシステムについてはチャート法の説明・付録参照すること.ディジタルX線システムの特性曲線は,入力はX線量で出力はピクセル値で表わされる.この入出力特性は,ディジタル特性曲線と呼ばれており,ディジタル画像の解析ではピクセル値そのものを扱うことが多いため重要度も高い.ディジタル特性曲線では,通常,横軸は相対X線量,縦軸はピクセル値で表わされ,線形であるとされている.(アナログの場合は,縦軸が写真濃度であり,非線形であった).特性曲線線の測定法のひとつとして,撮影時間を変化させることでX線量を変化させるタイムスケール法がある.この測定法は,撮影時間を大きく変化させるために相反則不軌(参照:チャート法の解説の最後尾)が問題となることが知られており,増感紙−フィルム系ではあまり用いられていない.しかし,ディジタルX線画像システムでは,X線検出器にフィルムを用いてないので,相反則不軌が問題とならない.したがって,ディジタルX線画像システムでは,タイムスケール法も距離法やアルミニウム段階を用いた方法と並んで有効な測定法である.ディジタル特性曲線からは,ダイナミックレンジ,システムコントラスト,入出力直線性,相対感度などを読み取る事ができる.

B線形化
チャート法,スリット法の説明参照.ディジタル特性曲線を用いること以外は同じ.

CESFの微分
ESF(edge spread function)は,エッジ像のピクセル値のプロファイルと考えて良い.このESFを微分することでLSFを求めることができる(図2).ディジタル画像では,微分をピクセル値の差分で置き換えて用いることが多い.

  図2 ESFとLSF

ディジタル画像のMTF測定では,エリアシングエラーを防ぐために合成LSFを作成して用いる.サンプリングピッチを仮想的に小さくする事でより詳細なLSFを得る.一般的にエッジ法では,エッジを3°程度傾けて撮影を行う.そして,傾いたESFを微分してLSFに変換後,LSFの合成を行う.傾いたエッジ像であるために,得られたLSFのアライメントは上下数ピクセル分のLSFと若干ずれることになる(図3のA〜E).つまり,これらのずれたLSFから図3右の1〜25のような順でLSF値をとることで,仮想的にサンプリングピッチを小さくした合成LSFが得られる.図3の例では,原画像が100μでサンプリングされたとすると,合成後のサンプリングピッチは100/5=20μになる.

  図3 LSF合成例とその意味

DLSFのフーリエ変換
スリット法の説明参照.

ディジタル系のMTF
 アナログ系(増感紙-フィルム系)のMTFは,通常,X線管からフィルムに至るまでの各部位での入出力特性を合計したオーバーオールMTFで表わされることが多い.一方,ディジタル系のMTFは,X線検出器のMTF,サンプリングアパーチャのMTF,画像処理のMTF,ディスプレイ部のMTFなど各部位で個別にMTFを測定する場合もある.これらの中で,特に,X線検出器(イメージングプレートなど)のボケとサンプリングアパーチャのボケを含んだMTFをプリサンプリングMTFと呼び,一般的にこのプリサンプリングMTFがディジタル系のMTFとして測定される(注:ディジタルMTF≠プリサンプリングMTF).プリサンプリングMTFは,ディジタル系に固有な解像特性を表わすMTFであり,増感紙-フィルム系や他のディジタルX線画像システムとも比較が可能であることから,最も信頼性の高い解像特性の評価法であるとされている.図4は,ディジタルX線画像システムに存在するいろいろ構成要素とそれらに対応するMTFを示している.

  図4 ディジタルX線画像システムに存在するいろいろ構成要素とそれらに対応するMTF

こうしたディジタルX線画像システムのオーバーオールMTF(MTFoverall(u,v))は,次の式によって表わされる.u,v は空間周波数を表わし,*はコンボリューションを示す.

 MTFA(u,v) :ディジタル化される前のアナログ成分(X線検出器など)のMTF
 MTFS(u,v) :サンプリングアパーチャのMTF
 MTFF(u,v) :画像処理のMTF
 MTFD(u,v) :ディスプレイ部のMTF

★プリサンプリングMTF=MTFA(u,v)×MTFS(u,v)   ←上式中の[ ]の部分

★ディジタルMTF=プリサンプリングMTF * くし形のサンプリング関数(コーム関数)のフーリエ変換   ←上式中の{ }の部分

 

実験1: エッジ法でMTF(プリサンプリングMTF)を測定してみよう

【目的】 エッジ法によるMTF測定法を習得する.

【手順】

1.エッジ像と特性曲線の作成

⇒撮影された画像データ(特性曲線用のデータ:timescale.raw,エッジ像:knife_edge.raw)をダウンロードする.まず特性曲線を作成しておく.ここではタイムスケール法を使って特性曲線を作る.タイムスケール法についてはチャート法の付録参照.以降の作業はImageJというソフトウェアで行う.ImageJの入手はこちらから

I.画像(timescale.raw)を開く (*ImageJでは日本語が含まれるファイル名やフォルダ名ではファイルを開くことができないので注意)

II.線量ごとに同じ大きさのROIの画素値の平均を計算する.

III.画素値の平均vs相対線量のグラフを書く. →Excel

  相対線量=Log10(線量/標準線量)  (例えば,最も低い線量を標準線量とする)

IV.近似式を求めておく. →Excel

  画素値から線量へ変換することに注意する.←チャート法のときを思い出す.
  (y = ax + b のように近似式を求めておく.y:線量,x:画素値)

2.エッジ像からESF(ピクセル値)を取得

  Excelでは求めたいタンジェントの角度をラジアンの単位で与える. 例:TAN(RADIANS(θ))

3.有効露光量変換 (次の 4.合成LSFの作成 で合わせて示す)

4.合成LSFを作成

5.LSFをフーリエ変換→MTF

 LSFを正規化し,離散フーリエ変換によってMTFを得る.←前回のスリット法とほぼ同じ.

 

A列: 合成LSFのサンプリングピッチで計算した距離 →原画像のサンプリングピッチは100μm
B列: 合成ESF(画素値のまま) →グラフ化してみる(横軸:距離)
C列: 合成LSFの値(有効露光量変換後のエッジ像の差分値) →グラフ化してみる
D列: C列のLSFを正規化した値
    例:(C2−C列の最小値)/(C列の最大値−C列の最小値)or C2/C列の最大値
E列: D列を離散フーリエ変換したときの実数部(G2で空間周波数を指定できるように)
    例: D2*COS(2*A2*PI( )*$G$2)
F列: D列を離散フーリエ変換したときの虚数部(G2で空間周波数を指定できるように)
    例: D2*SIN(2*A2*PI( )*$G$2)
H2とI2: 離散フーリエ変換後の実数部(E列)と虚数部(F列)の総和
    例: SUM(E列すべて)
H3:空間周波数G2におけるMTF値

最後に周波数ごとのMTF値を記録し,空間周波数0のときのMTF値で正規化し,グラフにプロットする(横軸:空間周波数,0〜6cycles/mm程度,縦軸:正規化MTF値).


実験2: X線量に変換しないで,画素値をそのまま使ってMTFを測定してみよう.

【目的】 ディジタル系X線システムの線形性を確認する.

【手順】 実験1の手順で 3.有効露光量変換 を省き,ピクセル値で直接MTFを求める.

      実験1で求めたMTFと比較するために,同じグラフ上でプロットしてみること.