概要
本講義では、病院情報システム(HIS)を中心に、医療情報学における情報システムの発展と構成について解説された。特に電子カルテシステム、オーダーエントリーシステム、医事会計システムという3つの中核システムと、放射線情報システム(RIS)の機能と役割に焦点が当てられた。病院情報システムは、医事会計システムから始まり、1999年の電子媒体保存に関する通達以降、電子カルテシステムが普及した歴史的経緯が説明された。これらのシステムは、依頼情報、実施情報、結果情報という3種類の情報をネットワークを通じて共有し、病院全体の業務を支援している。
主要な概念と理論
- 病院情報システム(HIS): 病院の業務を支援するコンピューターシステム全般の総称で、特に部門間を連携する主要システムを指す
 - 電子保存の三原則: 真正性、保存性、見読性を満たすことで診療録の電子媒体保存が可能
 - SOAP記録法: 主観的情報(S)、客観的情報(O)、評価(A)、計画(P)による診療記録の構造化手法
 - フェイルセーフとフールプルーフ: システムエラー時の危険最小化とユーザーエラーの防止機構
 - データウェアハウス: 複数のデータベースから情報を集約し分析するシステム
 - DPC(診断群分類包括評価): 診断に基づく定額医療費制度
 - マスターとトランザクション: 固定的データと変動的データの区別
 
提起された重要な質問
- 病院情報システム導入における費用対効果はどのように評価されるか
 - 膨大な医療情報をどのように活用し、新たな知見を発見できるか
 - システム更新時のデータ移行における課題をどう解決するか
 - サイバーセキュリティ、特にランサムウェア攻撃への対策はどうあるべきか
 
主要なポイントと学習目標のまとめ
- 病院情報システムは医事会計システムから始まり、電子カルテシステム、オーダーエントリーシステムへと発展してきた
 - 病院情報システムは依頼情報、実施情報、結果情報の3種類の情報を扱う
 - 電子カルテシステムは1999年の通達により、真正性、保存性、見読性を満たせば電子保存が可能となった
 - SOAP形式による診療記録は、主観的情報、客観的情報、評価、計画の4要素で構成される
 - オーダーエントリーシステムは依頼情報の作成・送信と実施情報の受信という2つの主要な役割を持つ
 - 医事会計システムは患者情報登録、診療情報の取り込みと計算、請求処理を担う
 - 放射線情報システム(RIS)は診療放射線技師が使用する部門システムで、検査予約、実施管理、画像保存を行う
 - DICOMは医用画像のフォーマットと通信規格、HL7は医療情報交換の標準規格である
 - 検像は撮影画像をPACSに保存する前に、オーダー通りの撮影か、画質が適切かを確認する重要な作業である
 
トピック1: 病院情報システムの構成と歴史
病院情報システムは、病院を構成する部門を結び、病院の業務を支援するコンピューターシステム全体を指す。その発展は医事会計システムから始まり、これは会計処理を半自動化・自動化するシステムとして最初に導入された。人が手計算で行っていた診療内容の入力から保険点数の計算までを自動化することで、業務効率を大幅に向上させた。
1999年に厚生省から電子媒体保存に関する通達が出され、真正性、保存性、見読性という電子保存の三原則を満たすことで、診療録などを電子媒体で保存することが認められた。これにより2000年代以降、電子カルテシステムが普及し始めた。
病院情報システムは複数のサブシステムで構成されており、中核となるのは電子カルテシステム、オーダーエントリーシステム、医事会計システムの3つである。これらは各部門システム(放射線情報システム、検査情報システム、薬剤調剤システムなど)と連携し、病院全体の情報を統合的に管理している。
患者の動線に沿って見ると、初診時に医事会計システムに患者基本情報が登録され、その情報が診療システムに共有される。医師は診察後、オーダーエントリーシステムを介して各種検査や処方箋のオーダーを出し、各部門システムに伝達される。実施情報は各部門から医事会計システムに戻り、最終的な会計処理が行われる。
システム導入の手順としては、まず導入目的を明確にし、業務フローを分析してシステム化の範囲を決定する。次に要求仕様書を作成し、開発導入企業を入札で決定する。詳細な機能仕様を作成し、ICD-10(病名コード)、HOTコード(医薬品標準マスター)、JJ1017(放射線領域標準マスター)などのマスターを作成・カスタマイズする。その後、具体的な開発を進め、スタッフへの教育・操作訓練を経て設置に至る。
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トピック2: 電子カルテシステムの機能と特徴
電子カルテシステムは、診療録として必要な情報を電子的に記録・管理するシステムである。カルテ(診療録)は診療行為を記録したもので、思考過程の記録や思考の道具として位置づけられる。医師法や歯科医師法により、診療録には最低限、患者の住所・氏名・性別・年齢、病名、主要な症状、治療方法(処方・処置)、診療年月日の記載が義務付けられている。
電子カルテには、従来の診療録に加えて診療記録まで拡張された内容が記載される。具体的には、診療用紙1号用紙の内容(患者個人情報、保険種類)、傷病名、既往歴、経過、処方、処置、各種検査結果、他院からの紹介状などが含まれる。医療情報のマルチメディア性により、様々な形式の情報を統一的に保存できるようになっている。
電子カルテシステムの主な機能として、まず経過記録機能がある。これはSOAP形式での入力が一般的である。SOAPとは、S(Subjective data:主観的情報)、O(Objective data:客観的情報)、A(Assessment:評価)、P(Plan:計画)の4要素から構成される。Sは患者が訴える症状(発熱、咳、喉の痛みなど)、Oは身体所見や検査結果(体温38℃、インフルエンザ迅速検査陽性など)、Aは診断結果(インフルエンザA型など)、Pは治療計画や経過観察の指示を記載する。
その他の機能として、入力支援ツール(文章入力の短縮、シェーマのテンプレート)、検索・表示機能、オーダーエントリーシステムとの連携機能、文書管理機能、病名管理機能などがある。シェーマは患者への説明時に図を用いて病状を視覚的に示すことができ、電子的な記録も可能となる。
電子カルテシステムの利点は多岐にわたる。情報共有のしやすさでは、外来・病棟・検査部門など端末があればどこでも確認でき、同じ内容を複数人が同時に閲覧可能である。手書き文字からの解放により、医師の走り書きによる誤読や事故のリスクが軽減された。情報の管理・保管が容易になり、物理的な保管スペースが不要となり、長期保管も可能となった。人員とスペースの節約、患者への説明の充実、待ち時間の短縮(特に会計処理)などのメリットがある。
一方、問題点としては、導入費用と維持費用が高額であること、キーボードやマウスでの入力作業による診察時間の増加、膨大な医療情報の活用が不十分であること、システム更新時のデータ移行の困難さ、見読性・通覧性の課題(端末がないと閲覧できない)などが挙げられる。
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トピック3: オーダーエントリーシステムと医事会計システム
オーダーエントリーシステムは、発生源入力システムまたはオーダリングシステムとも呼ばれ、伝票に代わって端末から投薬、検査、X線撮影などの各種依頼情報を直接オーダー情報として入力し、診療部門や医事請求部門に伝達するシステムの総称である。
その主要な役割は2つある。第一に、依頼情報の作成・送信である。医師が診察中に各種検査や処方箋などのオーダーを出し、それがオーダーエントリーシステムを介して各部門システム(放射線情報システム、薬剤調剤システムなど)に伝達される。第二に、実施情報の受信である。各部門で処置や検査が実施されると、その実施情報がオーダーエントリーシステムに戻り、最終的に医事会計システムに共有される。
オーダーエントリーシステムは予約システムを兼ねていることも多い。オープン予約では、予約枠や時間が公開されており、医師が空き状況を確認して直接予約を入れる。一方、クローズド予約では、予約情報が非公開で、検査部門が空き時間を回答し、患者に確認を取って予約を入れる方式である。現在はオープン予約が主流となっている。
オーダーエントリーシステムのメリットとして、手入力作業が不要となり、会計処理が迅速化され、患者の待ち時間が大幅に減少した。診療部門では、過去のオーダー履歴を参照し、依頼情報を電子的に複写・修正して再利用できるため、業務効率が向上した。また、医療安全の観点から、オーダー登録時にコンピューターによるチェック機能(重複、禁忌事項の警告など)を組み込むことで、フールプルーフの仕組みを確保できる。
医事会計システムは、保険点数の自動計算と治療費請求を行うシステムである。主な機能として、第一に患者情報登録がある。これは医事会計システムの最も基本的な機能で、患者の基本情報が最初に登録されるのは医事会計システムであり、その後他のシステムに共有される。第二に、診療情報の取り込みと計算機能があり、オーダーエントリーシステムなどから診療行為のデータを収集し、診療報酬点数表に基づいて保険点数を算定し、診療報酬の請求額を計算する。第三に、患者への請求と診療報酬明細書(レセプト)の発行、第四に、残りの医療費を保険事業者に請求する機能がある。
関連用語として、レセプトは患者が受けた診療について医療機関が保険者に請求する医療費の明細書である。DPC(診断群分類包括評価)は、診断がつけられた病名に対して、治療が終わり退院するまで基本的に定額とする制度で、過剰な医療行為を抑制する効果がある。ICD-10は疾病、障害および死因の統計分類で、WHOが作成した世界標準の病名コードである。
マスターは一度定義されると滅多に変更がないタイプのデータで、ICD-10(病名コード)、HOTコード(医薬品標準マスター)、JJ1017(放射線領域標準マスター)、保険点数表などが該当する。これらは巨大なデータベースとして医事会計システムの基盤となっている。一方、トランザクションは時々刻々追加・修正されていくタイプのデータを指す。
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トピック4: 放射線情報システム(RIS)の機能と役割
放射線情報システム(RIS: Radiology Information System)は、放射線部門関連の情報システムの総称で、診療放射線技師が診療業務で使用するシステムである。主な機能として、検査依頼の受付、検査予約、検査室の管理、各モダリティへの予約情報伝達、実施情報の受信などがある。
RISは病院情報システムの一部門システムとして位置づけられ、電子カルテやオーダーエントリーシステムと連携している。医師からのオーダーがRISに届くと、RISは各検査機器(モダリティ)にその検査情報を分散して送る。撮影された画像はDICOM形式で保存され、PACS(画像保管管理システム)に送られる。PACSに保存された画像は、院内の各端末からいつでも検索・閲覧できる状態となる。
通信規格として、放射線部門内ではDICOM(Digital Imaging and Communications in Medicine)が使用される。DICOMは医用画像のフォーマットであり、医用画像を送受信する際の標準規格である。デジタルカメラの画像がJPEG形式で保存されるように、医用画像はDICOM形式で保存される。一方、RISと病院情報システム(電子カルテ、オーダーエントリーシステムなど)との間では、HL7(Health Level 7)という医療情報交換のための標準規格が使用される。HL7は文字情報(患者基本情報など)を共有する規格である。
RISの重要な機能として、モダリティワークリスト管理機能(MWL)がある。これは検査予約情報のリストで、各CT装置やMR装置などのモダリティに対して、その日の検査スケジュールを割り振る機能である。また、検査状況管理機能(MPS: Modality Performed Procedure Step)は、検査の開始、実施中、終了といった状況をRISが逐一把握する機能である。
検像は、モダリティから撮影した画像をPACSに保存する前に、撮影した画像が保存しても良い画像かどうかを確認する作業である。具体的には、オーダー通りに撮影できているか(右手と左手の間違いなど)、画質が適切か、見たい部位が映っているか、不要な部分を消す必要があるかなどを確認する。検像は技師の重要な業務であり、多くの場合は検査を実施した技師が確認するが、検像専門の担当者を配置する病院も増えている。検像システムでは、誰が確定したか、どのような操作をしたかが全て記録として残る。
RISのその他の機能として、線量管理、照射録の作成、物品管理などがある。照射録は法律で義務付けられており、RISのシステム上で自動的に記録される。また、読影レポート機能も組み込まれており、最近では技師の所見を備考欄に書き込める機能を持つシステムも増えている。
PACS(Picture Archiving and Communication System)は、医用画像保管管理システムと呼ばれ、放射線画像を中心とした医用画像で撮影されたものを全て保存するシステムである。従来はフィルム保管庫が必要だったが、PACSの導入により物理的な保管スペースが不要となり、長期保存も可能となった。
RISを利用するメリットとして、検査依頼情報および患者情報を電子的に受け取れるため、情報の正確性が増し、撮影伝票の判読や転記の際のリスクがなくなった。また、依頼情報や患者情報を撮影検査装置と連携することで、業務結果(画像情報を含む)を整合的に確保でき、二次利用もしやすくなった。
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実施すべき次のステップ/課題
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補足資料
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<AIの出力結果をそのまま掲載しています(未編集、正確性未担保)>