医療倫理について

■「医療倫理」とは?

 「生命倫理(bioethics)」はインフォームド・コンセントに代表される「患者の権利の拡大」と、臓器移植やクローン技術に象徴される「先端医療の生み出す倫理的問題への対応」に中心がありました。これらはいずれも大変に重要な問題ですが、学問としての体系性を考えたときに、より高い普遍性を持った枠組みの中に位置づけられなければなりません。

 また「医の倫理(medical ethics)」は、「医師の倫理」であって、例えば看護学生に教えるのは不自然な気がします。患者の視点で考えてみると、医療(福祉や健康教育、保健医療政策も含めて。これも英語で「health care」といった方がわかりやすい)に関わる人は、専門性は異なっても、医療や福祉を提供する側として、ある一定の倫理学を共有しているべきではないのでしょうか。

 最近では「臨床倫理」、「研究倫理」など、日本では医療倫理の細分化が進んでいるように見受けられます。しかし、こうした細分化の背景には多分に社会的な要素があり、学際性や多職種性を忍耐強く探求しようとするよりは分化してしまおうという後ろ向きな動機があると私は見ています。学際性や多職種性を放棄してはならないでしょうし、哲学・倫理学的な理論的探求と臨床・研究の場での実践的探求とを、ともに推進する試み(これも困難なことですが)を諦めてはならないと思います。


■『医療倫理学の方法』(医学書院) 

医療倫理の入門書『医療倫理学の方法 原則・手順・ナラティヴ』を2005年3月に刊行し、2016年に第3版に改訂しました。お陰様で読みやすいとのご評価をいただいてきました。医療倫理学とはどんなものか? 本書では、医療倫理学の概要を、具体的な事例を題材にしながら、倫理原則や歴史の次元、また人間の生活世界の次元から深く考えるための手がかりを提供します。(詳しくはこちら)

■ ペンス『医療倫理』(みすず書房)

2000~2001年に、全2巻からなる医療倫理の重要事例集『医療倫理 よりよい決定のための事例分析』をみすず書房から翻訳出版しました。本書は、G・ペンスの手になる、米国の代表的な事例集の翻訳書で、新潟大学教育人間科学部・長岡成夫先生との共訳書です。本書も、お陰様でご好評をいただいてきました。(詳しくはこちら)

© Michio Miyasaka 2014