2.MTFの測定-スリット法-

【スリット法】


スリット法による増感紙-フィルム系のMTFの測定手順の概略を図1に示す.



図1

 図1 スリット法の測定手順概略


①スリット

使用する金属スリットは,タングステンなどX線吸収の高い材質で作る.金属スリットに対して垂直な方向にX線だけを通過させるようにするために,スリットの幅と高さ(厚さ)との比は1:100以上となるように十分に大きくする.また,金属スリットの幅は,できるだけ狭いことが望ましい.これは,実際に測定されるMTFには,増感紙-フィルム系によるボケだけでなく,スリット幅によるボケも含まれているからである.一般的に,スリット幅が10μm程度であれば,スリット幅によるボケは無視できるとされている.そこで,増感紙-フィルム系のMTF測定では,10μm程度のスリット幅が用いられている.基準露光と倍数露光については④を参照.



②特性曲線

チャート法の説明・付録参照



③線形化

チャート法の説明参照.マイクロデンシトメータで得たスリット像の濃度プロファイル(図2中左上),つまり写真濃度を特性曲線(図2右上)を用いて相対X線量に変換することでLSF(図2右下)が得られる.



図2

 図2 有効露光量変換


④LSFの合成・補完

理論的には,LSFは,その中心から無限遠まで続くと考えられる.しかし,スリット像のピークの写真濃度が,撮影に用いたX線フィルムで表現できる最大の写真濃度となるように撮影を行ったとしても,X線フィルムで表現できる最も低い写真濃度より低い値をもつLSFは求めることができない.つまり,裾野が裁断(トランケーション)されたLSFしか求めることができない.このように裾野が欠如したLSFをフーリエ変換して求めたMTFは,振動し(特に高周波で)正しい解像特性を示さない.このような誤差をトランケーションエラー(図3)という.



図3

 図3 トランケーションエラーの原因と結果


このトランケーションエラーを抑制するために用いられるのが,倍数露光法指数関数によるLSFの外挿法である.基準露光ではLSFのピーク付近を求め,倍数露光では,基準露光で測定できなかったLSFの裾野部分を求める.倍数露光法によって,LSFのピークからみておよそ1%程度までを実験的に求めることができる.これ以遠は指数関数で近似することで補う.理論上,無限遠まで求めたLSFを用いてMTFを計算することで,トランケーションエラーを含まないMTFを求めることができる.倍数露光法によるLSFの合成と,指数関数によるLSFの外挿の模式図を図4に示す.


図4

 図4 トランケーションエラーの抑制法(倍数露光法によるLSFの合成と,指数関数によるLSFの外挿)


なお,スリット法でMTFを測定するときに起こり得るエラーには,トランケーションエラー以外にエリアシングエラーというものもある.これは得られたLSFを読み取る間隔(サンプリング間隔)が粗いことが原因で発生するMTFの誤差である(図5).つまり,サンプリング間隔が標本化定理で求められる間隔を越えて大きい場合にエリアシングエラーが発生する.その結果,計算したMTFは高い空間周波数において正しい値を示さなくなる.MTFにエリアシングエラーの影響が含まれないようにするには,サンプリング間隔を十分に小さくし,標本化定理を満足する必要がある.具体的には,高鮮鋭な増感紙-フィルム系のMTF測定では,サンプリング間隔を5μm程度,これと比べて低鮮鋭なシステムでは10μm程度でサンプリングを行えば,計算したMTFにエリアシングエラーが含まれることはないとされている.


図5

 図5 エリアシングエラーの原因と結果


⑤LSFのフーリエ変換



図6

 実験1: スリット法でMTFを測定してみよう.

【目的】 スリット法によるMTF測定法を習得する.トランケーションエラーを確認する


【手順】

1.スリット像と特性曲線の作成

⇒作成済みと仮定し,スリット像の濃度プロファイルと特性曲線のグラフ(pdfjpeg)を配布.


2.有効露光量変換

⇒配布したグラフ用紙上で手書きで行う.(図2参考)


3.基準露光と倍数露光のLSFを合成+指数関数によるLSF外挿

⇒実施しない.


4.LSFをフーリエ変換→MTF

⇒離散フーリエ変換を用いる.Excelを使用.下のExcelシートおよび説明を参照.


図7

 A列: サンプリングピッチ(0.005mm程度)
 B列: LSFの値(有効露光量変換後の値)  ←LSF値をグラフ化してみる(横軸:距離)
 C列: B列のLSFを正規化した値
    例: B2 / B列の最大値
 D列: C列を離散フーリエ変換したときの実数部(F2で空間周波数を指定できるように)
    例: C2*COS(2*A2*PI( )*$F$2)
 E列: C列を離散フーリエ変換したときの虚数部(F2で空間周波数を指定できるように)
    例: C2*SIN(2*A2*PI( )*$F$2)
 G2: 離散フーリエ変換後の実数部(D列)の総和 (式8のaに相当)
    例: SUM(D列すべて)
 H2: 離散フーリエ変換後の虚数部(E列)の総和 (式9のbに相当)
    例: SUM(E列すべて)
 G3: 空間周波数F2におけるMTF値( =SQRT(G2^2+H2^2) ) (式10に相当)

 最後に周波数ごとのMTF値を記録し,空間周波数0のときのMTF値で正規化し(割る),グラフにプロットする(横軸:空間周波数:0~15cycles/mm程度,縦軸:正規化MTF値).


 実験2: サンプリング間隔を粗くしたMTFを求め,実験1で得たMTFと比較してみる.

【目的】 エリアシングエラーを確認する.


【手順】

LSFを読み取るサンプリング間隔を粗くする.実験1では0.005刻み程度で読み取ったが,8倍ほど粗くしてみる.つまり,サンプリング間隔を0.005×8 = 0.04にしたMTFを作成する.サンプリング間隔以外は実験1と同じ手順.ここで得られるMTFと実験1のMTFと比較する.下のExcelシート参照.


図8

 実験3: 指数関数でLSFを外挿したMTFを求め,実験1で得たMTFと比較してみる.

【目的】 LSF外挿法によるトランケーションエラー抑制法を理解する.


【手順】

②辺のデータでLSF左裾の近似式(指数関数)を求め,①辺のLSF値を近似式で求めた値に置き換える[例:B2=0.2124*EXP(23.453*A2)].同様に,③辺のデータでLSF右裾の近似式(指数関数)を求め,④辺のLSF値を近似式で求めた値に置き換える.近似式による外挿後のLSFもグラフ化してみる.以降の計算は実験1と同じ.ここで求めたMTFと実験1のMTFを比較してみる.下のExcelシート参照.


図9

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