3.ウィンドウ(階調)処理

【概要】

 ディジタル画像は画素値という数値で表現される.この画像をディスプレイで観察するためには,画素値を明るさ(輝度)に変換する必要がある.ウィンドウ処理は,CT画像のように幅広いレンジの画素値を持った画像のある特定の濃度域のみを,表示系の濃度域[0(暗)〜255(明)]に変換して表示する処理である.これは,CT画像のみならず,ディジタル化された画像のコントラストを変更して表示する際に必ず実行される.

 原画像が8ビット程度の濃度分解能しかない場合には,主に表示コントラストの補正として利用されるが,医用画像は8ビット以上の濃度分解能を持つことが多いため,ウィンドウ処理の役割は大きい.

 *)以降,”画素値”は画像ファイルに保存されている値を意味し,”グレイレベル”は表示に使われる濃淡を表す値を意味する.

 ウィンドウ処理には,ウィンドウ値(Window Level: WL)ウィンドウ幅(Window Width: WW)の2つのパラメータがある.図1をみてみよう.

図1 ウィンドウレベルとウィンドウ幅の関係

 

 aは原画像の画素値のヒストグラム*)である.WLとWWは,原画像の画素値をどのようにグレイレベルに変換するかを決定する.bはその特性を示しており,図1では,aで示されたヒストグラムにおけるWWの幅だけが0〜255のグレイレベルに変換されることを表している.この対象領域を決定する値がWLとWWであり,WLは対象領域の中心値,WWは対象領域の幅を表す値である.

*)ヒストグラムは,横軸が画素値,縦軸がその画素値の頻度を表している画素値の分布グラフである.

 

演習3-1: ウィンドウ処理を使って,乳房X線画像から微小石灰化像を確認してみよう!

使用する画像: 乳房X線画像の一部(”calc.org”,RAW形式,512×512画素,16-bit Unsigned(実際は12ビット),Swap Bytesあり)

⇒画像の中心付近に微小石灰化像がある.

⇒微小石灰化像: 乳房X線画像における画像所見のひとつであり,早期乳癌に伴って現れることが多いとされている.そのため画像診断においてその検出は非常に重要であるが,陰影そのものは極めて微細である.

方法:

1.使用する画像(以下,原画像)をダウンロー ドし,各自のhomeフォルダ内の適当な個所に保存する.(例:home Samva Serverフォルダ内に”enshu2”というフォルダを作成し,その中に保存する)

2.Scion Imageを起動し,原画像を表示する.

⇒ここで用いる画像はTIF形式ではなく,画素値が画像ファイルに2バイト単位で保存されているデータ形式のため,表示方法が異なる.このような画像をScion Imageを用いて表示する際には,メニュー「File」より「Import」を選び,ボタン「Custom」を選択する.ここで,表示しようとするファイルは2バイトで符号なしのデータであるため,「16-bit Unsigned」を指定する.このとき,「Swap Bytes」もチェックしておく.さらに,ボタン「Set」を押すと,縦横の画素数,ヘッダのバイト数,スライス数,スケールの最大値と最小値を入力するウインドウが開く.ここで,幅,高さとも512と入力する.「OK」を押し,画像「calc.org」を選択すれば画像が表示される.

3.Mapウィンドウで,WLとWWが変更できる.WL,WWを変更して微小石灰化像を確認してみよう.

ただし,Scion Imageでは,WL,WW値を直接みることはできない.図1中のWW範囲の最小値と最大値のみが,Infoウィンドウ内の太字のMin,Maxで表示される.

考察: 

・使用した原画像においてウィンドウ処理を行 うことで微小石灰化像の観察に最適と思われる画像を作成してみよう。また そのときのWL,WWを計算してみよう。

・WL,WWと画像のコントラストとの関係を考えてみよう.(例:WWが広いときコントラストは向上する?低下する?)

 

 CT画像には,画素値にCT値と呼ばれるX線吸収値に比例した値が保存されている.このCT値は,空気の約‐1000から,骨部の約1000までの値を持つ.これは11ビット程度の濃度分解能を持つここと等価であり,ウィンドウ処理はCT値の異なる部位を詳細に観察するために欠くことのできない処理である.

 CT画像でよく用いられるウィンドウ処理の設定値として,縦隔条件と肺野条件がある.縦隔条件の画像は,縦隔を構成する軟部組織に焦点を合わせて,ウインドウレベルを30前後,ウインドウ幅を500前後に設定した画像のことで,心臓や食道な どを見るのに適しているが,肺の構造はほとんど真っ黒になってしまう.一方,肺野条件の画像は空気を含んだ肺実質を観察するためにウインドウレベルを-500ぐら いに下げ,ウインドウ幅を1000ぐらいに広げた画像であり,肺の細かい変化をみるのに適している.

 また,異なる条件でウィンドウ処理を行った2枚の画像を合成し,1枚の画像で表示することをダブルウィンドウと言う.ダブルウィンドウは,CT値が大きく異なる領域を一度に観察することができる利点がある.ただし,合成を行う際に,重要な所見が隠れることがないように,注意する必要がある.

 

演習3-2: CT画像のウィンドウ処理を行い,ダブルウィンドウ画像を作ってみよう!

使用する画像: 胸部X線CT画像(”chestct.org”,RAW形式,512×512画素,16-bit signed,Swap Bytesあり)

⇒右肺野に肺癌陰影がみられる.

方法:

1.使用する画像(以下,原画像)をダウンロードし,各自のhomeフォルダ内の適当な個所に保存する.

2.Scion Imageを起動し,原画像を表示する.

⇒「16-bit signed」を選択する以外は演習2-1と同じ.

3.Mapウィンドウでウィンドウ処理を行い,骨部分を強調した画像と肺野領域内を強調した画像を作成し*1),保存する

     

骨部分を強調した画像例             肺野領域内を強調した画像例

*1) 目的とする画像になったら,「File」→「Rescale」を実行する.この操作では,現在表示している画素値のみ,つまりウィンドウ幅の範囲内の画素値のみを使用して新たにルックアップテーブルを作成する.もしこの操作により画素値が反転した場合は,「Edit」→「Invert」を実行する.

⇒補足参照.

4.3で作成した2枚の画像を読み込み,表示する.

⇒「8-bit」を選択する以外は演習3-1と同じである.

5.ペイントバケツツールをつかい,肺野領域を強調した画像での白い部分を塗りつぶす.

      

6.画像を合成し,結果画像を観察してみよう.「Process」→「Image Math」を実行.

 

考察: 

・ウィンドウ処理した二つの画像(骨部分を強調した画像,肺野内領域を強調した画像)のWL,WW値を計算してみよう.

・作成したダブルウィンドウ画像では,重要な所見が隠れることなく,きれいに表示されているか?

補足: 

 画像の表示においては,画素値を表示用のグレイレベルに直接割り当てることはあまり一般的でない.画素値を表示用のグレイレベルに対応させたルックアップテーブル(LUT)を作成し,それを利用して表示する方法が一般的である。この方法では,画素値にカラーテーブルを対応させることによって,疑似的なカラー表示も可能となる.しかし,画素値の幅が表示のLUTの数よりも多い場合には,ウインドウ処理のたびにLUTをつくり直す必要がある.この操作は「File」から「Rescale」を選択することで実現されている.ここで指定できるのは最大値と最小値であり,WLとWWを直接指定することはできない.

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