岩渕 三哉

教授:臨床生体情報学講座、病理病態検査学
E-mail:iwafuchi@clg.niigata-u.ac.jp

研究領域(テーマ)

1)消化管、胆、膵の病理
2)内分泌細胞腫瘍の病理
 


臨床検査と形態学

 
図1
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

図3
 
 

 

図2
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

図4


 
 多くの臨床検査にコンピューターシステムが導入され、検査結果は数値で自動的に表示されるようになりました。このような時代でも、病気の臓器や組織、細胞、病原体などを肉眼や顕微鏡を用いて「ひと」の視覚で検査する病理学、病理組織細胞学、血液学や微生物学などの形態学分野は臨床検査の重要な部門です。
 本専攻の形態学分野のひとつとして病理学実習の一部を紹介します。例えば、テキストに「隆起型胃癌」という記載があります。胃の内腔へ隆起した胃癌の肉眼像を理解するために、胃内視鏡像(図1)や切除胃標本の肉眼形態を観察します。次に「隆起型胃癌」を形づくる顕微鏡レベルの組織形態とその検査法を学びます。自分で顕微鏡標本を作製し、染色して観察します。光学顕微鏡の基本染色はヘマトキシリン・エオジン染色(図2)です。図2の標本を観察して、この胃癌は癌細胞が腺管を形成する分化型胃癌であり、癌腺管が密に増殖することで正常胃粘膜から隆起していることを理解します。癌が粘膜から粘膜下層へ進展して、静脈内に侵入しており、肝臓への転移の可能性があることを組織形態から学びます。さらに、特殊染色と免疫組織化学を用いると、組織形態を物質レベルで機能的に解析することができます。胃癌などの腺癌には粘液を確認する特殊染色が有用です。高鉄ジアミン-アルシアン青染色(図3)は粘液多糖類のなかから酸性粘液多糖類だけを染め出し、シアロムチンを青色に、スルホムチンを黒紫色に識別します。組織標本上での遺伝子検査としてin situ hybridization法を学びます。これを用いると一部の胃癌にEpstein-Barrウイルス遺伝子が検出されます(図4左)。このような肉眼・組織形態学の知識と技術は病理診断として臨床医学に貢献するとともに、生命科学の研究に重要です。病変の形態を臓器と組織レベルで理解できれば、細胞レベルに直結します。腹水中の1個の細胞や細胞集団の形態から胃癌(腺癌)細胞であることを判定するのが細胞診です(図4右)。臨床検査技師(細胞検査士)は細胞診を担当し、臨床医学や集団検診で重責を担っています。
 形態学にも分子生物学や免疫学、計測学などの方法と成果が応用されていますが、基盤は主観的な視覚画像です。正常と病的な肉眼・組織形態を繰り返して観察して、形態学的判定基準を修正しながら身につけていきます。検査標本の多くは手作業で作製されます。臨床検査としての形態学は、形態の分析的観察と優れた標本作製技術とで成り立つ「ひと」による検査・診断部門です。
                                                             岩渕三哉「新潟大学学報」第606号